関連文献紹介

 ヴァルド派を研究するにあたっては、最初に2つの大きな問題をクリアしなくてはなりません。1つは「語学習得」、もう1つは「文献蒐集」です。



0.ヴァルド派を研究するために

 語学に関して、中世のヴァルド派を研究する(=史料を読む)には中世オック語中世ラテン語、近代のヴァルド派を研究するにはフランス語、現代のヴァルド派を研究するにはイタリア語の習得が、それぞれ絶対条件となります。さらに、史料を読んで行われる研究が日々世に出されている以上、先行研究を分析し、最新の研究動向についていくためには、イタリア語フランス語ドイツ語英語を習得しておかなければなりません。特に現在のヴァルド派教会ではイタリア語が主に使われていますし、文献もイタリア語で書かれたものが多いので、最低でもイタリア語だけは使えるようにしておく必要があるでしょう。

 資料に関して、日本国内でヴァルド派関連の専門書を見つけるのは限界があります。ゆえに、海外から資料を取り寄せる必要が出てくるわけですが、それ相応の費用がかかりますし、そもそもどこから取り寄せればいいのかわからない場合も多いかと思われます(研究を始めた当初、私はこの点でとても苦労しました)。

 語学は様々な習得方法がありますので、今回はそれには触れず、ヴァルド派を研究するにあたっての関連文献と、その入手方法を紹介していきたいと思います。



1.一次史料の場合


 当サイトでは、ヴァルド派の創設からヴァルド派の歴史研究協会 Société d'Histoire Vaudoise (現・ヴァルド派研究協会 Società di Studi Valdesi)が創設される1173年頃~1881年の間に作成された文書をヴァルド派の一次史料として定義します。この間におけるヴァルド派史の時代区分としては、「中世」と「近代」が含まれ、便宜上、中世の史料に関しては、ヴァルド派文書とカトリック教会文書の2つに、さらに近代の史料に関しては、ヴァルド派文書、(ヴァルド派以外の)プロテスタント諸宗派文書、カトリック教会文書の3つに分けて紹介します。


◆中世の史料

 印刷術が発明される前、中世期に作成された史料は、手書きの写本として残されています。ヨーロッパの様々な図書館に保管され、その性質から貴重書扱いになっているものも多い写本は、基本的に現地に直接行かないと目にすることはできません。また、何の準備もなしに突然図書館に行ったところで見せてもらえるわけではなく、各図書館が定める規則に沿って必要な書類(身分証明書、紹介状など)を用意し、事前に図書館の写本管理セクションと訪問約束を取り付けておかなければいけません。訪問時、図書館によっては、持ち物検査簡単な面接が行われる場合もあります。これは、写本閲覧室に持って入れる道具が制限されているため(飲み物などの液体やインク式のペンは不可の場合が多い)であり、どのような理由・目的で写本を使うのかを確認するためです。写本の取り扱いに関して、誓約書にサインを求められる場合もあります。

 こうして無事に写本と対面できた時は、喜びもひとしお。しかし、図書館には開館時間という制限がありますので、いつまでもじっくりと読んでいられるわけではありません。家に帰ってからもじっくりと写本を読みたい場合は、「複写サービス」に申し込んでみましょう。これは図書館によって異なるのですが、複写方法には大きく分けて2つあり、1つはカメラで写真を撮る方法、もう1つはデジタル化する方法です。


カメラで写真を撮る方法……多少のお金を支払って写真の撮影権を買い、持参したカメラ(図書館の定めるタイプのもの)を使って、その場で自ら写本の写真を撮ります。利点は非常に安価なこと(数百円程度)、自由な角度で撮影できること、難点は開館時間内にしかできないこと。

デジタル化する方法……1ページあたりいくらという形で図書館側に希望する葉数の複写依頼を行い、後日メールなどでデジタル化された写本の画像データを受け取ります。利点は綺麗な画像データが入手できること、世界中どこにいてもネットから依頼できること、難点は極めて高額になりがちなこと(写本1冊を丸ごとデータ化して、数万円~十数万円程度)。


【デジタル化された写本の画像データ:実際は非常に高画質で、拡大しても文字がつぶれない】



 ちなみに、中世のヴァルド派文書に関しては、Jean Gonnet et Amedeo Molnar (1974) : Les Vaudois au Moyen âge, Claudiana, Torino. の巻末 APPENDICE I : Manuscrits vaudois ou d'intérêt vaudois (pp.443-450) の項目に所蔵図書館リストが記されており、非常に参考になります。


◆近代の史料

 近代の史料は印刷されたものが多く、入手も、読解も、中世のそれと比べると容易です。Google 社が提供する「Google Books」や、フランス国立図書館 Bibliothèque Nationale de France が提供する「Gallica」などに PDF 化されたデータがアップロードされている場合も珍しくはないため、検索すれば見つかる可能性が結構高いといえます。もちろん、ネット上ではどうしても見つからない場合もありますので、その場合は上記の写本閲覧と同様の手順を踏んで、実際に図書館まで見に行きましょう。時々、古本屋さんで原本が販売されていることもありますが、印刷されたものとはいえ、1冊に10万円近くの値段がついていたりすることも少なくありません。使える研究費と相談しながら、資料を入手して下さい。


 以下のリンクから、これまでに私が行ったヴァルド派関連の史料分析がダウンロードできます。網羅的なものではありませんが、よろしければ参考までにご覧下さい。

pdf 文献リスト - ヴァルド派関連書(一次史料).pdf (0.61MB)




2.二次資料の場合


 一次史料と比べ、二次資料の入手は、それほど難しくはありません(でも、大変です)。なぜなら、現在のヴァルド派研究の多くは「ヴァルド派研究協会 Società di Studi Valdesi」、「ヴァルド派文化センター Centro Culturale Valdese」、「ヴァルド派神学校 Facoltà Valdese di Teologia」によって集積されており、この3つの組織が有する図書館に行けば、大概の資料が手に入るといっても過言ではないからです。ちなみに、それぞれの性格から、研究協会と文化センターはヴァルド派の歴史的側面に、神学校はその神学的側面に関する資料を多く所有しています。まずは、ヴァルド派研究の最先端を走るこれらの組織が発行している各種印刷物を確認しておきましょう。その殆どは、ヴァルド派が1855年に創設した出版社クラウディアーナ Claudiana によって印刷されており、同社直属のクラウディアーナ書店 Libreria Claudiana(トッレ・ペッリーチェ、トリノ、ミラノ、フィレンツェ、ローマに支店がある)で購入することができます。


◆ヴァルド派研究協会発行のもの

ヴァルド派研究協会紀要 Bollettino della Società di Studi Valdesi
 ヴァルド派研究協会の紀要。1884年創刊で、年に2回(6月と12月)の発行。毎号複数の著者が様々なテーマについて論文を執筆しており、伊、仏、独、英、の4ヵ国語で投稿可能。

ヴァルド派研究協会叢書 Collana della Società di Studi Valdesi
 同協会の叢書。1966年創刊で、年に1回の発行。毎号1人もしくは複数名が共編で特定のテーマについて執筆しており、執筆言語は伊語のみ。

2月17日の小冊子 Opuscoli del XVII Febbraio
 ヴァルド派の解放記念日「2月17日」の記念小冊子。1904年創刊で、年に1回の発行。毎号1人が特定のテーマについて執筆しており、執筆言語は伊語のみ(1904-1935年の間は仏語で書かれていた)


◆ヴァルド派文化センター発行のもの

ラ・ベイダーナ La Beidana : cultura e storia nelle valli valdesi
 ヴァルド派の谷における歴史や文化を紹介する小冊子。1985年創刊で、年に2回(6月と12月)の発行。上記研究協会が発行するものと比べると、研究的な性格は薄い。


◆ヴァルド派神学校発行のもの

プロテスタンテージモ Protestantesimo
 ヴァルド派神学校発行の学術誌。1946年創刊。

ヴァルド派神学校叢書 Collana della Facoltà Valdese di Teologia
 同神学校の叢書。1955年創刊。



 さらに、ヴァルド派関連の研究文献を検索する上で欠かせないのが、ヴァルド派参考文献検索 Bibliografia Valdese です。ヴァルド派文化センターの図書館が管理しており、伊、仏、独、英の4ヵ国語対応で、ヴァルド派関連の様々な研究書や論文が検索できるようになっている、ヴァルド派に特化した OPAC です(ちなみに、文化センターおよび神学校の図書館に所蔵されている私の博士論文も掲載されています)。そして、この OPAC で検索した文献の多くは文化センターおよび神学校の図書館で入手でき、メールで複写依頼をすることも可能です。ちなみに、あまり多くはありませんが、ヴァルド派に関する日本語文献も存在します。それらはヴァルド派文化センターやヴァルド派神学校の図書館では入手できないものなので、CiNii 等で検索をかけ、日本国内の図書館や書店を利用して入手しましょう。



以下のリンクから、当研究会が蒐集したヴァルド派関連文献(一部)のリストがダウンロードできますので、よろしければ参考までにご覧下さい。

pdf 文献リスト - ヴァルド派関連書(二次資料 - 欧文).pdf (0.31MB)

pdf 文献リスト - ヴァルド派関連書(二次資料 - 邦文).pdf (0.27MB)



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